少しだけ曲解説
「残したい日本叙情曲」
作曲家の故平吉毅州氏とともに日本の叙情歌曲50曲を合唱曲に編曲するにあたり、飯沼信義氏は気負いこんで仕事にとりかかったが、その過程で、どれだげ原曲に忠実に没頭できるかを謙虚に探る姿勢に徐々に変わっていったという。氏はこの編曲の仕事を通して、あらためて先人達が残してくれた遺産の素晴らしさを、再認識させられたという。そのため作曲の立場よりは、むしろ演奏者、鑑賞者の立場で原曲の周辺に近づこうと、雑な音を持ち込まず音を少なめにし、原曲の鼓動を探り、その波動が連れてくる光や色や香りといったようなものを捉えようと努めた。「時代を越えて人々に愛慕される作品というものは、第一、とてつもなく「寛容」で「控え目」で、聞き方歌い方について、「これしかない!」というふうに「決め」や「押しつけ」で迫ったりはしないものだということを思い知らされた。」と飯沼氏は言っている。
今日は7曲すべて飯沼信義編曲による、皆様おなじみの曲ばかりです。どうぞご一緒に口ずさみながら、お楽しみください。
ト長調・ミサ曲(作品167)
F.シューベルト
このミサ曲はシューベルト18歳の1815年3月2日から7日まで、わずか5日で作曲された。ミサ曲の作曲というと大ごとのようであるが、ウィーンの寄宿学校で聖歌隊員を務め、カトリックのミサ曲伝統に通じていたシューベルトにとっては、ごく自然な行為であったことだろう。オリジナルの編成は、独唱、合唱、弦合奏にオルガンという、簡素なものであったが、のちに兄のフェルディナンドがオーボェ(あるいはクラリネット)2、トランペット2、ティンパニを書き加えた。曲の規模や雰囲気は、最初のヘ長調のものときわめてよく似ている。とくにソプラノ独唱部の旋律についてそのことが顕著であることを考えると、おそらくこのミサ曲においても、ソプラノのソロを歌ったのは最初のミサ曲の初演のテレーゼ・グローブという17才の初恋の相手といわれている女性と思われる。